経営者Q&A

事業承継についての基本的な心構え(2008年12月)

【Q】私も60歳を越したので事業承継の準備にとりかかったほうがよいのではと思いますが、そのための基本的な心構えや留意点について教えて下さい。


【A】よい時期に相談にこられました。一般的によい事業承継のためには10年位前から取組むのがよいと言われています。従来は税理士さんによる相続税対策ばかり云々されていましたが、実は他にもたくさんの重要な問題があります。
 もし承継者がいなければ、どうしても手じまい準備的な気持になって消極的な経営となってしまい、経営の基本方針にも大きな影響がでてきます。当然のことですが銀行の見る目も冷たくなってきます。また、中小企業では承継によって生じる人的構成の変化も大きな要素となります。これがうまくいかなければ社員たちは動揺します。たとえ親子であっても時代がちがい、創業か否かの違いがありますから考え方や価値観は大きく異なります。この溝を埋める努力をしないままの承継者発表は社内を二派に分裂させる危険性もあります。自分の下で貢献してくれた旧幹部の去就をどうするのかは承継者にとってはとても重要な問題です。このようなことへの対策として企業理念を明らかにし、ともに共有できるようになっていることが大切です。
 親子などの親族承継では相続の際に株式の分散が生じないようにしておくことが必要です。その方法はいろいろありますが専門的なので別の話とします。また、遺留分による紛争が生じないように承継しない相続人たちにも充分な配慮をしておくことです。このようなことのために遺言書を書くことがよく勧められますが、遺言書は書いておきさえすればよいというものではありません。予想外の遺言書が出てきたために社長はそんなことを考えていたのかとか、そんなことを自分で言うはずがないなどと、かえって紛争を深刻化させることもあります。日頃から社長の承継に対する基本的な考え方を皆に話し、自然のうちに了解事項としておくことが大切です。
 次に、親族に承継者がいなくて社員の中から選ばなければならない場合には、無借金経営としておくことが必要です。次期経営者として期待できる有能な社員なのに巨額の会社借入金があり、代表者連帯保証ができないばかりに承継できないという事例がよくあります。
 最後に親族や社員に承継できる者がなく、社外へ承継者をさがすこととなれば結局M&Aということになります。この場合は、承継者決定ギリギリまで秘密厳守が求められます。また社内承継の場合には税対策や株の買取額を下げる目的などのために帳簿上企業価値を下げるという対策がとられますが、M&Aの場合には有利に会社を譲渡するために極力企業価値を高めておくことが必要なので正反対の対策が必要となります。また、譲渡を受ける側は会社の実体価値を知り、リスクを徹底的に調査したいし、譲渡する側は極力会社のボロは隠して高価値に見せたいのが人情ですから、この調査権と開示義務の相克で専門的な難しい問題が発生し、素人が対策を考えるのは危険な場合が多いと思います。
 以上のような基本方針を立てて組織的な準備を行なうには10年位かけるのが理想的ということです。



原口 紘一(三多摩支部)
原口法律事務所
TEL.03-3361-9633

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