法制審議会民法(債権関係)改正部会の中間論点整理への意見

2011年6月1日

 中小企業庁御中
東京中小企業家同友会
代表理事  藤田 明男
政策部長  板橋 和彦

〒170-0005 
東京都豊島区南大塚3-39-14 大塚南ビル2階
電話03-5953-5671 FAX03-5953-5672

法制審議会民法(債権関係)改正部会の中間論点整理に対する
懸念を表明し、慎重な検討を要望する


 現在、法務省法制審議会民法(債権関係)改正部会(以下「部会」という)において、民法改正に向けた準備作業が行われています。民法は言うまでもなく、国民の日常生活、企業活動の根本をなす法律ですから、その改正は、国民一人一人のみならず、我々中小企業家ひいては日本経済にとっても極めて大きな影響を及ぼすことになるものです。
 しかし、部会において検討されている民法改正の内実は、公正取引委員会に摘発される不公正取引の実態や下請取引の実態ともかみ合わず、日本経済の現実にある事業者間格差を拡大させる恐れが大きく、また国民にわかりにくいものであって、中小企業にとっては受け入れがたい点も多くあります。
 これは、先般閣議決定された中小企業憲章に照らしても、「中小企業の多くは、----不公平に取引を強いられるなど数多くの困難に晒されてきた。」という現状認識にたって社会を改革することを求めた理念とは食い違い、「改正」の進め方の点でも「中小企業者の意見を聞く」という点も不十分と考えられます。よって、中小企業庁・経済産業省は法務省に対して、慎重な検討と中小企業者からの意見の十分な聴取を要望する必要があると考えます。
 以下、会内でこの部会の中間論点整理での検討内容で懸念されている点を上げます。


1)契約書によって「無過失」責任を負わされる危険性

 検討委員会は、債務不履行に関する現行民法の「過失責任主義」の考えを排除し、損害賠償責任の帰責根拠を「契約の拘束力」に求め、債務者が「履行障害リスクを引き受けたか否か」により同責任の成否を決定するとしている。その結果、「契約の拘束力という帰責根拠」から理論的に導かれる免責事由(ないし適合的な免責事由)として、新たに「契約により引き受けていない事由」という免責事由概念を提案している(検討委員会編「債権法改正の基本方針」3.1.1.63(1)参照 以下「基本方針」という)。法務省も基本的にこの考え方を支持していると考えられる。
 しかし、「引き受け」という言葉は曖昧であり、かつ国民やユーザーに分かりにくい。
 最も問題であるのは、このような考え方によれば、契約書の記載内容が重視され、交渉力等において優位の者(大企業)が劣位者(中小企業等)に対して、免責否定条項(例えば「目的物の焼失」等の履行障害リスクを細かく掲げて「これらを全て債務者(劣位者)が引き受けた」とするもの)を含む契約書を押しつけることを容認する傾向が生じる危険性があることである。あるいは、逆に、かかる優位者(大企業)が劣位者(中小企業等)に対し、過度の免責条項(あらゆる履行障害リスクを掲げて「これらを債務者(優位者)が引き受けていない」とするもの)を含む契約書を押しつけることを容認する傾向が生じる危険性もある。そうすると、劣位者(中小企業等)は、このような免責否定条項のために無過失の責任を負い、あるいは免責条項のために「故意・重過失による債務不履行をした優位者(債務者)」に対してすら、損害賠償責任を追及できなくなる危険性がある。
 このように、「契約により引き受けていない事由」という免責文言は、「国民に分かりにくい」ばかりか「事業者間の格差拡大の危険性」があるので、失当であり、このような改正を行うべきではない。

2)容易に契約の解除がなされてしまう危険性

 次に、検討委員会は、現行の催告解除の考え方を排除し、国際取引ルール(ウイーン条約など)を参考に、契約を解除するには相手方に「重大な不履行」がなければならず、かつ債務者に「重大な不履行」があれば、債務者に対する催告も債務者の帰責事由も不要としている。部会資料においても、上記の「重大不履行」の考え方が提示されている。
 しかしながら、「重大な不履行」を要件とする考え方については、「何が重大か」が非常に不明確であって国民やユーザーに分かりにくい。
 そればかりか、「重大な不履行」を解除の要件とした場合、その意味が不明確なこともあって結局は「重大性」について契約書の記載が重視されてしまい、交渉力等における優位者(大企業)が、契約書において「重大な債務履行の例示条項」(例えば「目的物の取扱説明書については、内容のいかんを問わず期限内に引き渡すことが債務履行として重大である」など)を盛り込み、これにより解除が容易になるようにすることを容認する傾向が生じる危険性がある。現に、検討委員会は「重大な不履行」の定義を「相手方が契約に対する正当な期待を失った場合など」としているので、かかる重大性についての契約書の記載が「正当な期待」として重視されることになる危険性があるのである。
 そうすると、このような契約書を押しつけられた劣位者(中小企業等)は、たとえ些細な事由の不履行であっても、即時に契約を解除されてしまうなどの不利益を受ける危険性がある。
 従って、「重大な不履行」を解除要件とする見解は、国民やユーザーに「分かりにくい」ばかりか「格差による不利益を発生させる危険性」があるので、このような改正を行うべきではない。

3)危険負担排除により、解除通知未到達の危険性を負わされるおそれ

 検討委員会試案は、危険負担制度を廃止し、債務者が契約の拘束力から免れる方法を解除に一本化している。これは、債務不履行における過失責任主義の放棄による帰結と考え、同じく、部会も解除一元論を暗に支持していると思料される。
 しかし、一般国民やユーザーは、例えば「売買における目的物が引渡前に不可抗力で滅失した場合は、引渡債務は履行不能で消滅し、反対債務の履行も当然に免れる」と考えるのが通常であって、このような場合にも「契約を解除しなければ反対債務を免れない」とするのは極めて分かりにくいし、解除一元論に立てば、この場合にも債権者は債務者に対して解除通知をしなければならず、通知の仕方も良く分からない国民やユーザー(消費者や零細事業者などの劣位者に多い)にとっては煩わしいばかりか、解除通知未到達の危険を負担すべきことになり、劣位者保護にそぐわない。
 よって、危険負担を廃止する解除一元論は、国民やユーザーに「分かりにくい」ばかりか「劣位者保護にもとる」ので妥当とは言えず、このような改正を行うべきではない。

4)取引先から不当な報酬減額の要求を受ける危険性

 検討委員会試案及び部会資料提案では、いわゆる事情変更原則を明文化すること、及びその効果として再交渉義務を相手方に課すこととしている。
 その結果、同案のもとでは、例えば中小企業の下請業者が、大手の元請業者から注文を受けて目的物を完成して引き渡した後で、その元請業者から「予期できない経済情勢の悪化による事情変更」を理由に請負代金の減額交渉を申し込まれることがあり得る。
 この場合、たとえ根拠のない代金減額の要求であっても、「再交渉義務のある事情変更原則」を根拠とした代金減額再交渉が行われている間は、元請業者は請負代金の支払いを拒否する権利を有するので、下請業者は早期に請負代金回収ができなくなる危険がある。そればかりか、そのような代金減額の再交渉中に、元請業者が破綻すれば下請業者は代金回収が一切出来なくなる危険がある。よって、少なくとも「再交渉義務を課す事情変更原則」の明文化は行うべきではない。

5)債権譲渡におけるコスト増等の危険性

 検討委員会試案及び部会資料提案は、債権譲渡を第三者に対抗するための要件について、従来の通知・承諾の制度を廃止し、必ず債権譲渡登記をしなければならないとしている。 しかし、この案では第三者対抗要件を備えるためには債権譲渡の度にその登記をすべきことになって、登記手数料(現状では内容証明郵便の費用よりも高い)を負担しなければならず、比較的少額の債権の譲渡を行う中小企業にとってはコスト高となってしまう。
 そればかりか、現状では債権譲渡登記を受け付けている法務局は、全国でも東京の1カ所のみであり、このままでは遠隔地の地場企業等(多くが中小企業であろう)は、債権譲渡登記を申請すること自体が面倒になり(インターネット登記は出来るが利用環境を整えるだけでも煩瑣である)、債権譲渡そのものを諦めざるを得なくなる危険がある。 それ故、少なくとも、上記の問題点を解決することなく早期に一律に債権譲渡登記制度を強制する改正案は、中小企業等から債権譲渡による資金調達などの途を奪うことになりかねず、失当である。

おすすめ勉強会

詳細

渋谷支部・西部協議会
7月6日(木)
第12期 販売塾
大好評です!!ロングランで...
会場:東京中小企業家同友会・会...
報告者:販売力強化の第一人者・坂 陽風氏及びコンサルタント連合『青藍会』の強力講師陣
渋谷支部
7月20日(木)
もっと強く、新しい企業に!!第...
好評『販売塾』と両輪 も...
会場:東京中小企業家同友会・会...
報告者:販売力強化の第一人者・坂 陽風氏