フリーランス保護新法への実務対応:中小企業における留意点(2025年6月)
「フリーランス保護新法」において中小企業に求められる対応について教えてください。口頭での合意の慣行は引き続き妥当でしょうか。
当該法律は中小企業にも深く関わり、特にフリーランスへの業務委託時の「取引条件の明示」は全事業者に課される重要な法的義務です。既存慣行を再検証し、法遵守措置を講じることが肝要です。
序論:フリーランス保護新法の概要
2024 年11 月1 日施行の「フリーランス保護新法」は、フリーランスの権利保護強化と発注事業者との取引公正化を目的とします。働き方の多様化に伴いフリーランスの活用は増加しましたが、契約不明確性等の問題も散見されました。本法はこれらに対処し、フリーランスが安定的に能力を発揮できる環境構築を企図し、発注者には新たな法的義務や禁止行為が規定されました。
「取引条件の明示義務」遵守の重要性
本法は発注事業者に多岐にわたる義務を課しますが、中でも「取引条件の明示義務」は全事業者が遵守すべき最重要事項です。これは契約主要条件を具体的かつ明確に、書面または電磁的方法で遅滞なく通知する義務を指します。不履行は行政措置や罰則の対象となり得ます。
明示必須の主要事項は、双方の名称・氏名、業務委託日、業務内容・成果物仕様、納期、受領場所、検査期日(該当する場合)、報酬額・支払期日、現金以外の支払方法(該当する場合)です。これらは契約書等で明確に記録・交付し、未確定事項は理由・確定予定時期を明示、確定後速やかに補足通知が必要です。
「取引条件の明示」の法的意義と実務的効果
本義務は契約内容に関する紛争を防止し、フリーランスの不利益回避を目的とします。基本条件の不明確性は紛争リスクを高めます。例えば「デザイン制作一式」でなく「〇〇向けパンフレット(A4 判、4 色刷り、総4 頁)、修正2 回上限」のように具体的に記述することで認識を共通化できます。これはフリーランス保護に加え、発注者側にも品質確保や紛争回避による業務効率化・コスト抑制の利益をもたらします。
中小企業に求められる具体的対応策
- 契約書雛形の整備・改訂: 法定明示事項を網羅した雛形を作成・整備します。専門家助言も有効です。
- 社内規程整備と教育: 従業員に本法の概要、特に明示義務の重要性を理解させ、実務手順を規程化し周知します。
- 相互理解に基づくコミュニケーション:フリーランスを対等なパートナーとして尊重し、具体的コミュニケーションを実践します。
結論:法改正を契機とした取引慣行の高度化
本法遵守は短期的には事務負担増の可能性がありますが、フリーランスとの取引関係を再構築し、より健全かつ生産的な協働体制へ昇華させる好機です。契約条件明確化は信頼関係を醸成し、企業の競争力向上に資すると考えられます。本法の趣旨を理解・遵守し、フリーランスという外部経営資源を最大限活用し、持続的成長に向け戦略的に対応することが望まれます。
根本 達矢(練馬支部)
東池袋法律事務所
弁護士
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