かわらばんVol.9 エネルギー調達構造の転換と中小企業に迫る「供給不足」の危機
東京同友会イラン情勢かわらばん VOL.9
1 中東情勢に伴う資材ひっ迫に関する今後の見通し
令和8年5月12日に開催されました、経済産業省「中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース」の資料より、中東情勢に伴う資材ひっ迫に関する今後の見通しを見ていきます。
今回の経済産業省のレポートから見えてくるのは、日本がいま「資源や燃料が安く、安定的に手に入る時代」から大きく転換しつつあるという現実です。中東情勢の悪化を受け、日本政府は原油や重要物資の安定供給確保に総力を挙げていますが、その内容を見ると、単なる一時的危機対応ではなく、日本のエネルギー構造そのものの転換が始まっていることが分かります。
日本の平時の原油調達量は日量236万バレルですが、中東リスクの高まりを受け、急速に代替調達が進められています。4月時点では代替調達率は約25%(日量59万バレル)に留まっていましたが、5月には約60%(日量140万バレル規模)へ拡大し、6月には約70%以上(日量165万バレル超)に達する見込みです。特に米国からの調達量は前年比約8倍に増加する見通しであり、日本のエネルギー調達先が中東依存から米国・中南米・アジア太平洋・中央アジア・アフリカへと急速に多角化されていることが分かります。
政府は不足分について国家備蓄を放出することで補っています。5月・6月ともに必要量は日量216万バレル程度ですが、代替調達分だけでは不足するため、その差を備蓄で埋める構図です。当初、政府は代替調達率を4割程度と保守的に想定していましたが、実際には6割程度まで確保できたため、第3弾の国家備蓄放出は現時点で見送られました。つまり政府としては、「短期的な供給危機は一旦しのげる水準にある」と判断していることになります。しかし同時に、民間備蓄義務55日は維持されており、依然として危機モード下にあることも示しています。
また、燃料価格については政府補助によりガソリン価格を全国平均170円程度に抑え込んでいます。制度開始前には190円を超えていたガソリン価格は一旦落ち着きを見せていますが、これはあくまで巨額の補助金による抑制です。つまり、補助縮小や情勢悪化が起これば再び急騰する可能性を抱えており、燃料コストの高止まりは今後の常態になる可能性が高いと考えられます。
さらに深刻なのは、現場レベルで起きている「流通の目詰まり」です。レポートでは潤滑油、機械油、エンジン油、塗料、シンナーなどで供給偏在が起きていることが明記されています。日本全体で必要量そのものは確保されているものの、供給不安からの大量発注や買い占め、仮需によって一部地域や業界で不足感が強まっています。そのため経産省は異例の措置として、「前年同月比同量購入」を業界に要請し、必要以上の在庫積み増しを抑えようとしています。
一方で政府は、医療、交通、半導体、電池、食品、農業、漁業、学校給食、離島輸送など、社会インフラ維持に直結する分野を優先的に供給確保対象としています。これは裏を返せば、優先指定されない一般中小企業ほど調達難や価格高騰の影響を受けやすいことを意味します。
今回の会議が示している本質は、「全面的なモノ不足」ではありません。むしろ、“必要量は存在するが、偏在と高騰が続く時代”への移行です。そして、そこでは単に商品を作る力ではなく、「必要な時に必要な資源を確保できる力」そのものが経営力になります。
特に運送業、建設業、製造業、農業、機械加工業などでは、燃料・潤滑油・原材料の確保が利益を左右する時代に入りました。そのため今後の中小企業経営では、調達先の複線化、在庫の適正管理、価格転嫁、エネルギー依存度の見える化、そして何より粗利と資金繰りの管理がこれまで以上に重要になります。
日本はいま、「安価で安定したグローバル供給網」に依存した時代から、「供給そのものを守る経営」へと大きく転換し始めている。その現実を非常に鮮明に映し出していると言えるでしょう。
2 中小企業への影響
中小企業の83%が「すでに影響がある」または「今後影響の可能性がある」と答えています。すでに54%の企業で影響が顕在化しており、「影響はない見込み」はわずか4%しかありません。
特に深刻なのは製造業・建設業です。製造業では73.3%、建設業では67.6%が「すでに影響が出ている」と回答しており、操業停止や休業の可能性にまで言及する企業が相次いでいます。
具体的な影響として最も多いのは、「原材料・資材価格の上昇」(68.0%)、「仕入れ・調達の困難」(59.2%)、「エネルギー価格上昇」(43.6%)、「物流遅延」(37.8%)です。
しかし注目すべきは、“価格”以上に“供給停止”への危機感が強いことです。現場の声には、「シンナーが入手できず、操業停止の危機」「潤滑油が無くなると機械が止まる」「塗料が入らず納品できない」「断熱材や塩ビ管が出荷停止」「現場が止まり竣工代金が入らない」などの声が並びます。
つまり今回の特徴は、“需要不足”ではなく、“供給不足”による経営危機である点です。コロナ禍では「仕事が消える」ことが中心でしたが、今回は「仕事はあるのに材料が無い」という構造です。これは資源・物流・地政学リスクが直結する、まさに経済安全保障時代の危機と言えます。
さらに、この影響は製造業や建設業だけに留まりません。サービス業でも「顧客減少」「広告予算削減」「契約終了」「経営相談増加」など、二次的な影響が広がっています。
また、アンケートからは中小企業の“対応力の限界”も見えてきます。企業側は、調達先の多様化、在庫積み増し、価格交渉、コスト削減などに取り組んでいますが、調査では「有効な対応策を持てていない」という記述もあり、個社努力だけでは限界に達しつつあることがうかがえます。
今後の懸念としては、長期化による資金繰り悪化、建設・製造現場の停止、着工延期や受注減少、下請け企業の倒産、価格転嫁できないことによる利益圧迫、景気後退への連鎖などが強く意識されています。特に建設業では「完成できない→工事代金が回収できない→資金繰り悪化」という連鎖が始まりつつあります。
3 事業継続に影響が出てきたと思ったら(中小企業が今すぐ取るべき対策と相談先)
① 公的窓口への相談 経済産業省が拡充した「中東・ウクライナ情勢・原油価格上昇等に関する特別相談窓口」を日本政策金融公庫や信用保証協会などで利用し、今後の対応や融資について相談してください。
② 資金繰りの確保 原油価格高騰やサプライチェーンの停滞による売上減少を見据え、各自治体が実施する「イラン情勢の影響を受ける事業者向けの資金繰り支援」の申し込みを検討してください。
③ コスト上昇分の価格転嫁 エネルギーコストや原材料費の上昇分を販売価格へ円滑に転嫁するため、取引先との協議を開始してください。
④ 代替調達先の検討 特定地域への依存度を下げ、資材や燃料の代替調達先を確保するサプライチェーンの見直しが必要です。












