債権回収の場面における「公正証書」の活用(2016年11月)
Q
当社はしっかり仕事をしたのに、取引先が代金を支払ってくれません。ちゃんと払ってくれるのであれば、分割払いにしたり、期限を猶予することも検討の余地がありますが、できるだけ回収の可能性を高めるためにどのような手立てがありますか。
A
1 こんなときには「公正証書」の活用を
(1)公正証書とは何か
公正証書は、公証人が法律に従って作成する公文書のことをいいます。債権回収の場面で公正証書を活用するということは、債務の弁済に関する合意について、債権者と債務者だけではなく、公証人を介して公的な書面で合意をしておくという意味になります。
(2)どのような場合に必要か
即座に一括で支払われる場合には必要ありませんが、一度不払いになった債権を回収するためには、分割払いや、期限の猶予に応じざる得ないことも多いように思いますので、将来支払うと約束した分についても再び不払いになる可能性があります。このような場合には「公正証書」を活用されることをおすすめします。
(3)具体的にどんなメリットがあるか
公正証書が、通常の契約書と違う点は「支払いを怠ったときは直ちに強制執行に服する」という強制執行認諾条項という条項を入れておけば、実際に不払いが起こってしまった場合に、訴訟を経ずに、強制執行(差押え等)が可能である、という点です。このような強い効果がありますので、結果として、回収の可能性が高くなるということです。
「訴訟を経ずに」というところがポイントで、公正証書を作成しておけば、訴訟にかかる時間や費用を省くことができるということです。
2 公正証書の作成方法と作成手数料
(1)作成方法
公正証書は、公証役場というところに当事者双方が出向いて作成することになります。代理人による作成も可能で、実務上は、弁護士が代理人となって公正証書の作成に立ち会うことも多いです。
公証役場は全国各地に約300 か所あり、お近くの役場に連絡を入れて、あらかじめ公証人との間で書面案のやりとりを進め、最終案が確定してから作成日の予約を入れるのが通例です。
(2)作成手数料
公正証書の作成手数料は、債権額に応じて決められています。債権額が500 万円であれば1 万1000 円程度、1 億円でも4 万3000 円程度です。
訴訟を行う場合に裁判所に支払う印紙代は、債権額500 万円で3 万円、1 億円で32 万円ですので、それよりは低額に抑えられています。
3 分割払いにする場合の留意点
分割払いで合意する場合には「分割金の支払を怠ったときその他所定の事由が発生した場合は、当然に期限の利益を失い、直ちに残額全てを支払う」という期限の利益喪失に関する条項も入れておきましょう。この条項があることによって、実際に不払いになったときや該当事由が発生した場合に、債権全額についてすぐに強制執行することが可能になり、また遅延損害金を付加して請求することができます。
長谷川 研吾(千代田支部)
HSG法律事務所
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