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経営者Q&A

社長が倒れたその日、会社は代表者を失う 亡くなる前に訪れる、もう一つの承継問題(2026年9月)

Q

当社は従業員20名、創業35年の金属加工業です。私は68歳、株式は100%保有しています。長男が専務として社内におりますが、株式を移す手続も遺言もまだで、銀行借入には私の個人保証が付いています。
先日、同業の社長が脳梗塞で倒れ、会社が動かなくなったと聞き、他人事とは思えなくなりました。
もし私が倒れたら何が起き、いま何から手を付けるべきでしょうか。

A

事業承継が間に合わなくなる場面は、相続だけではありません。実は2つあります。

1 判断能力を失うと、株式も代表権も動かせなくなる
脳梗塞や認知症で判断能力を失うと、財産管理のために成年後見人の選任が必要になります。
2021年3月施行の会社法改正で成年被後見人は取締役の欠格事由から外れましたが、「後見が始まっても取締役を続けられる」という意味ではありません。すでに取締役の方が後見開始の審判を受けると、会社との委任契約が終了して退任すると解されています(民法653条3号)。任期満了や辞任ではないため、後任が就任するまで職務を続ける仕組みも働きません。
代わりに後見人が経営を担えるわけでもありません。企業経営に通じているとは限らず、その職務はご本人の財産の保全です。株主として議決権は行使できても、社長としての経営判断が戻るわけではありません。
より重大なのは承継そのものです。承継とは株式と代表権を後継者に移すことであり、社長ご本人の意思表示がなければ実行できません。
後見人が生前贈与や譲渡に応じることも、原則としてありません。承継を実行する手段そのものが失われるのです。
なお、成年後見制度自体も、2026年6月成立の民法改正で大きく変わります。

2 亡くなると、承継を決める「場」が失われる
遺言がなければ、株式は遺産分割が終わるまで相続人全員の共有です。議決権の行使には権利行使者を1 人決めて会社に通知する必要があり、その決定には共有持分の過半数を要します。
ご長男の法定相続分が過半数に届かなければ、ご長男を取締役に選任する決議すら成立しません。協議がまとまるまで、会社は意思決定の場を持てません。

3 いま打てる手
第一に、株式を誰に渡すかを遺言に書くこと。
2の事態はこれでほぼ防げます。第二に、判断能力があるうちに株式を動かし始めること。10年を経過すれば、原則として遺留分の計算からも外れます。第三に、事業承継税制(特例措置)を使う可能性を残すなら、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日です。後継者は候補の段階でも提出でき、後から変更もできます。
いずれも、社長ご自身が判断できるうちにしかできません。個人保証の外し方や遺留分への備えは、10月8日の例会で詳しくお話しします。

根本 達矢(練馬支部)
東池袋法律事務所
弁護士(東京弁護士会)
TEL:03-3983-4848
FAX:03-3853-2388
HP:https://www.nemoto-tatsuya.com/
e-mail: bengoshi-nemoto@hik-lo.jp
事業内容:相続をめぐる家族間の紛争(遺産分割・遺留分)の解決を中心に取り扱う。経営者の相続・事業承継に伴う自社株の承継、個人保証、後継者と他の相続人との利害調整など、会社と家族の双方にまたがる問題にも対応。税理士・司法書士等と連携し、紛争の予防から解決までを支援する。

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