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中小企業家群像

全体を捉え、共有し、発信する風土 ~人の営み「表現」を支えたい~
境 和彦 氏(千代田支部)

東芳紙業株式会社
代表取締役
境 和彦 氏(千代田支部)
【会社概要】
創 業 1 959年 8 月 3 日
従業員数 7人
事業内容 和洋紙卸業
所在地 東京都千代田区神田神保町2-2-34
千代田三信ビル 8F
TEL 03-6679-2577
HP https://toho-paper.co.jp/

「当社は和紙の卸売業を営んでいます。設立の1959年当時、国内は紙が手に入りにくい時代だったそうです。これを受け、事業の代表者たちが自社購買部門として当社を立ち上げた経緯があります」と境和彦氏。「発起人である株主が四代目の代表までを送り込んでいましたが、五代目より社内から代表が選ばれるように。そして私は、2011年に八代目の代表を任せてもらえることになりました」。

3・11以降、東京同友会へ

「2011年に代表を引き継ぐことになったのですが、私にとっては変化の多き一年でした。当年は父が亡くなり、忌引き明けで就任挨拶まわりをする中での東日本大震災。結果的に当社史上二番目の赤字を出すことになりました」と振り返る。「社内の固定費を見直すと、ふと東京同友会の会費に気が付きます。なんだ、これは、と」と冗談をはさみ、「1974年から会員になっているのであれば、私も足を運んでみようと。以降、支部、全国大会、経営指針成文化セミナーと学びの機会をいただき続けています」と語る。
「代表になった当初に感じたことは、あれ、後ろを向いても誰もいない、という孤独でした。自分で決めなければならないと気が付いたのです。どのくらい本当に経営者であったかはわかりません。しかし、とにかく黒字にしなきゃ⋮自分たちで会社の未来をつくるんだという心持ちになったのです」と手元を見つめる。

東芳紙業との出会い

「私自身は大学卒業後、製鉄メーカーにて岡山県で七年間勤務をしていました。主に工場の管理業務を担当。溶けた鉄が大きなバケツに入っていて、それを炉に流し込んでいく場面は知られていますよね。まさしく、あの一杯のバケツからどのような鋼鉄を生み出していくかの手順管理をしていました」。「全体にも影響する管理だったので、工場長や後工程の担当者とは密にコミュニケーションをとる日々。文字通り、二十四時間フル稼働でしたね」と笑う。「そして東京へ転勤、家族が出来、医療従事者である妻との話し合いの上、保育園の送り迎えも夫婦で協力し合える職場を求めていた結果、出会ったのが当社でした」と境氏。
「90年代当時は会社に対して、保育園の送り迎えを、とは言いづらい状況でした。しかし、当社先輩たちは時流を踏まえ、保育園をつくろうと企画する発想の持ち主でした。ご縁ってありますよね」と微笑む。

 

全体を見渡すことと表現の尊さ

「製鉄メーカーで全体を眺めながらの製鉄プロセスもワクワクしましたが、実は私、素材オタクでもあるんです」。「父が繊維の化学薬品を事業にしていて、当時小学生だった私は、分からないながらも興味津々で父の話を聞くのが楽しかったのです。紙のトレンドを重視する当社が私に合うのは素材オタク気質の影響もあるのかも」と声を弾ませる境氏。
「東日本大震災以降、企業変革支援プログラムを知り、社員と考えていく中で、彼らから経営指針成文化セミナーの受講を勧められます」。「経営指針成文化セミナーで出会ったメンバーからは多くの学びをもらいました。以降、サポーターも受け持ち、第41期から45期まで経営指針成文化セミナーのプロジェクトリーダーを任せてもらえました。コロナ禍でしたが、むしろ貴重な経験をさせてもらったなと感じています」と経営指針成文化セミナーメンバーからの贈り物に手をかける。「印刷用紙の業界は十年で六割にマーケットが縮小しています。しかし、当社が留まっていられるのも経営指針成文化セミナーのおかげです。社員と冷静に自社マーケットを分析でき、マーケット縮小の影響は少ないのでは、と判断することもできました。むしろシェアを広げられたくらいです。これは紙のトレンドを北海道から九州までヒアリングし、自ら共有してくれる社員のおかげです」と穏やかに語る。
「しかし、紙と印刷を取り巻く業界全体が厳しいのは確か。無理をすると全体が破綻をしかねません。全体観を捉え、交通整理と判断を行い、発信をすること。これは社内で行き交う言葉でもあります」。
「当社設立の経緯は紙不足にありました。表現をしたい人が表現をできなかった時代があった。やりたいことを出来るように整える大切さを噛みしめています」。「この業界で最後までリングに立っていられるようにしていこう、とは社員と分かち合っている想いです。今年は久しぶりに幹部との中期ビジョン合宿を行います。真に会社を主語にした会話って、社内では限界があるんですよね。富士山がどどんと見える景色を味わいながら、社員と将来を語れることが嬉しいです」と青空広がる窓の外に視線を送った。

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