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中小企業家群像

120歳現役宣言! 歯科技工業界の異端児、木村社長の挑戦 ―「稼げて誇れる仕事」に未来を託す経営哲学とは―
木村 正 氏

株式会社中央歯科補綴研究所
代表取締役
木村 正 氏(大田支部)

【会社概要】
創 業 1987年3月
従業員数 33名
事業内容 歯科技工 補綴物製作
U R L https://www.chuo4618.com/
関連会社 株式会社 miracle(歯科関連商材の販売)
https://miracle-smile.co.jp/

「私たち歯科技工士の仕事は、患者さんの失われた歯や口腔機能を回復するために、歯科医師の指示のもと、人工歯や入れ歯などの補綴物を製作することです。かつては金属冠(いわゆる銀歯)を製作する際、歯科医院から患者さんの歯型を預かり、石膏模型を手作業で作成し、ロウ材で人工歯形態を製作後に鋳型へ金属を流し込む方法が一般的でした。しかし現在では、口腔内を歯科用スキャナーで読み取り、そのデータをもとにCAD で設計し、選定した金属やセラミック、樹脂素材をCAM によって加工する
製作方法が主流となっています」と語るのは、株式会社中央歯科補綴研究所代表取締役の木村正氏。
東京・自由が丘駅近くの閑静な住宅街に佇む同研究所。ここでは、かつて熟練の技術に頼っていた歯科技工の現場が、いまや最先端のデジタル技術によって大きく変わろうとしている。業界の先駆けとして、その変革に挑み続ける木村社長の挑戦に迫る。

中学で出会った「天職」

「祖母が入れ歯で食事を楽しむ姿を見て、この仕事の価値を実感しました」。小学3年生の頃に「将来は社長になる」と心に決めた少年は、中学生のときに歯科技工士という職業を知る。高校卒業後に専門学校を経て国家資格を取得し、24歳で起業、社員数名の小さな歯科技工所からスタートした。

経営理念の言語化が会社を変えた

2005 年、業界に先駆けてデジタル補綴技術(CAD/ CAM)にいち早く投資。その後、転機となったのは、東京中小企業家同友会の「経営指針成文化セミナー」との出会いだった。
「自社の理念を言語化すると、やるべきことが明確になる」と木村社長は振り返る。
以降、毎年「経営計画書」を作成し、全社員と経営計画発表会を通して共有。人を大切にする経営に重きを置き、“理念経営”を貫いている。

高付加価値と人材育成で成長軌道へ

自費診療に特化した高付加価値製品を軸に独自ブランドを展開し年商は3億円を超える。人事制度も整備され、全国に2万社以上ある歯科技工所の中で、20人以上の規模を有する企業は百数十社のみ。その中で同研究所は注目の成長企業だ。
2018 年3月には、第8回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞において「審査委員会特別賞」を受賞している。
「稼げて誇れる革新的な仕事でなければ、若者には選ばれない」と語る木村社長は、一般社団法人日本歯科技工所協会の会長も兼務し、業界の政策提言にも積極的に関わり続けている。

雇用とは「人生を引き受けること」

ある社員の急逝をきっかけに、改めて「雇用とは、社員とその家族の人生を引き受けることだ」と深く自覚。教育や人材育成に力を入れ、「社員の夢を応援する会社」を目指す。面談では「あなたの夢は何ですか?」という問いかけを欠かさない。
「社員を雇ったのは社長。仕事ができない社員を採用したのも、育てられないのも、すべて社長の責任です」――その言葉には、強い覚悟と責任感が込められている。

デジタル技術が生む新しい働き方

同研究所では、歯科用人工ダイヤモンドを用いた美しい人工歯や、インプラント対応の複雑な補綴物、詰め物など、幅広い製品を取り扱っている。
補綴物の製作は、もはや熟練の職人技だけに依存する時代ではない。3D スキャン、CAD 設計、CAM 切削、そしてAI による自動設計―これらを統合することで、労働環境の整備と生産性の向上を実現し、高品質な製品を安定的に提供している。
「新人の歯科技工士が、彫刻刀の代わりにマウスを握って設計している姿が日常です」。
これらの環境整備には多額の投資を要するが、事業計画にもとづき国の補助制度を活用しながら着実に実現してきた。

保険診療へのデジタル化波及

かつてCAD / CAM 技術は自費診療向けが中心だったが、近年では保険診療への適用も進んでいる。とくに「銀歯」の代替として使用される白い樹脂素材の普及が、業界に大きな変革をもたらしている。
「高価な歯科用貴金属から、安全・高強度・審美性を兼ね備えた新素材への転換が進んでいます。ただし、これらの加工にはCAD / CAM 設備が必須となるため、高額な設備投資が課題でもあります。しかし、歯科技工のDX 化は、製品の安定供給と品質向上、生産性の飛躍的向上を可能にするのです。だからこそ今、先手を打って変化に挑むことが、生き残りの鍵になるのです」。
そう語る木村社長は、「新しい時代に向けて学び、挑戦し続けること。それこそが未来を切り開く鍵です」と力強く締めくくった。

120 歳現役を本気で目指す

「歯科技工士という仕事は、私にとって天職です。今の主な役割は経営ですが、120歳までは現役で頑張ります!」
その言葉に迷いはない。健康・笑顔を創造する企業として、「生涯現役で働ける職場づくり」と「業界の未来を担う若手育成」、そして「日本の歯科医療の質を守る」という使命を胸に、社員と関わるすべての人々の幸せを追求する。それが、木村社長の“志命”なのかもしれない。

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